「 第1部 今現在の中国 」

 今回のセミナーは第1部「今現在の中国」、第2部「ランチェスターセミナー」の2部構成で、第1部では太田会計上海事業部の柳瀬より、「今現在の中国」と題しまして、駐在員ならではの視点で観光では知ることのない上海事情をお伝えさせて頂きました。

    
   【 中国の国民性 】
    
 
中国の国民性を端的に表現すると『上昇志向』という単語が最も適しているのではないでしょうか。例えば、中国の学生は、卒業後、「何をやりたいのか」、「そのために何を勉強すべきか」という目的意識を強く持っており、自己のために戦略を築き、自己のために行動します。例外はあるにせよ自己の欲求に対し素直なため、今の日本人と比べ意識の高さは比較になりません。まさに日本の高度成長期の活気がそこにあり、個々がモチベーションを維持し続け現在の発展を維持しています。
日本人は物事(特に結果)を慎重に考え行動に移す傾向にあり、行動までのプロセスに時間を要します。しかし、中国人は行動が先行し、その後のことはそのつど考慮し対応します。慣例や規則にとらわれず、自由な発想で次の展開を読み取る嗅覚は国際的にも特化しており中国人特有の行動原則であると考えられます。
魯迅は、小説「阿Q正伝」の中で中国人の本質を、“中国人は、一人なら竜であり、百人なら虫になる”と説いています。いささか適切ではありませんが一言で表現すると、猜疑心が強いということとなります。なぜ、その様に例えたかを中国の歴史的背景から考察すると、その一端を理解することができます。中国は紀元後2000年のうち約800年間は、異民族によって支配された歴史を持ちます。異民族は自らの生存をおびやかす存在であり、接触対決が頻繁になるにつれ自己を守るため、また民族や家族を守るため、常に自己を鍛える必要がありました。よって、個々の自立心が長い歴史の中で脈々と形作られ、結果的に中国人の本質を形成したと考察されます。
 中国のビジネス観を表す話として、このような話があります。「いま、自分が偶然傘を2本持っていたとする。日本人であれば1本を自分用に、もう1本は傘を持っていない人に貸すであろう。しかし、中国人は、持っている傘を2本とも売り、自分は濡れて帰る。」という話しです。つまり、中国人は、常にビジネスのことを考え日々生活しています。中国人のビジネス観は欧米同様の成果主義が主流で、常に自己のスキルアップのため企業に属する傾向にあります。無論、万人に当てはまるわけではありません。若年層でもこのような傾向は強く、今後も更なる発展が期待される理由と思われます。

            
   【 中国のこれからについて 】        
            
  
13億人の大国、中国が2001年にWTO加盟により市場が開放され、多岐にわたる分野での経済活動の自由化、また、北京オリンピック開催が決定するなど中国はますます勢いを増しています。経済規模は世界第7位(2003年)、貿易は日本を抜いて世界第3位(2004年)に躍り出ています。携帯電話の普及は日本をはるかに上回り携帯電話ユーザー数は約2億7000万台(2003年10月末時点)にものぼり、より一層その存在感をみせつけています。その巨大マーケットを背景に、多方面で世界を変革しつつあります。
 しかし、巨大マーケットとして期待が高まる中国ですが、そのマーケットに受け入れられることは決して容易ではありません。ニーズに合った品揃えはもちろん、バックサイドとなる合弁先や現地従業員との言語の違いによるコミュニケーションの難しさ、また、国レベルでの問題である、文化・思想などの違い等、乗り越えなければならない課題も多く存在し、成功までの道のりは厳しいのが実情です。しかし、互いを理解し切磋琢磨することで、前述の大半は解決できると考えられますが、共通の目的意識・連帯感を構築することができれば、望む結果を得ることも可能であると思われます。
 前述のとおり中国人は目的意識が強く、その力はまだまだ未知数な部分が多く存在します。そのいまだ発掘されていない部分が発揮されれば、驚異的な力になることは言うまでもなく、日本は、中国の良いところを吸収し、自らの能力に昇華させる必要があります。人手や資源といった部分で対抗はできませんが、かつての日本がそうだったように中国と同様の活力を取り戻せば、“もの創り日本”の復活と共に世界に大塔することも可能と考えられます。ただそれは、気持ちの持ち方ひとつで大きく変わり、何か一つでも一位を獲ろうという気持ち、つまりは『上昇志向』こそが重要であり、それが、今後の躍進のポイントと言えるのではないでしょうか。

「 第2部 ランチェスターセミナー 」

講 師  ランチェスター経営 株式会社 
       代表取締役 竹田 陽一 氏

略 歴  1938年 佐賀に生まれる
1974年 福岡大学経済学部卒業
建材メーカーに入社
1973年 福岡のセミナーでランチェスター法則と出会う
1983年 ランチェスター経営 株式会社 創業
現在に至る

 

 今回のセミナーは、ランチェスター経営戦略の伝道師ともいえる竹田陽一氏より「1位作りの経営戦略」と題しましてご講演して頂きました。大企業における経営戦略ではなく、中小零細企業を対象とした内容ですので、ご来場された皆様、とりわけ経営者の方々には、わかりやすく、どの業種の方にも共感できる箇所が多くあり、大変ご好評を仰ぐものとなりました。今回のセミナーの内容を下記にまとめましたので、今後の経営戦略を考える上でお役立てください。   

   【 従業員1人当たりの年間純利益300,000円 】

黒字を出している中小企業の年間純利益の平均は、1人当たりにすると約300,000円、月当たりは約25,000円、1日当たりでは約1,100円、さらに1時間当たりだと約150円となります。皆様の会社ではいかがでしょうか。なぜ1人当たりの年間純利益を求めて経営を考えるのかというと、一般的なコンサルティング会社では、営業利益率・経常利益率等の専門用語を用いてお客様に説明しますが、実際に説明を受け、全てを理解するのはなかなか難しいものです。しかし、このように1人当たりで考えると、経営状態が非常に理解しやすくなります。また、資金繰りを考える上でも同様のことがいえます。前例のように、中小企業の自己資本を平均すると、1人当たり約480万円となります。これが800万円にまで増加できれば資金繰りにゆとりがでてきます。さらに、1,000万円にできれば資金繰りで悩まされることがなくなります。こうなれば、経営者は経営に集中することができるため、新しい考えやアイディアなどが生まれる可能性が高くなります。ですから、中小企業の経営者は1人あたりの自己資本1,000万円を目指し経営戦略を策定しましょう。


   【 会社は粗利益によって生きている 】        

当然のことながら、どんな企業も粗利益がなければ生きていくことができず、やがて倒産してしまいます。そうならないためにも企業は、継続的な粗利益の獲得が求められます。粗利益は顧客が持っているお金と、商品や有料サービスとを交換することによって生じ、それ以外の方法で生じることはありません。粗利益を生む過程として「人事・経理」、「製造・販売・営業」などさまざまな“仕事”がなされます。「人事・経理」は粗利益獲得にあたっては間接的要素、「製造・販売・営業」は直接的要素と捉え、粗利益獲得のため、間接的要素はより簡単に、直接的要素には、より重点を置いた経営が必要となります。例えば、同業種である2社の売上高が同程度であったとしても、利益に差が生じることがあります。単純に考えて、利益を多く得ている方は、利益に対する間接的費用が少なく、利益が少ない方は、間接的費用が多いと考えられます。こういった意味でも1人当たりの純利益を考えることが非常に重要となります。もちろん、間接的要素・直接的要素はどちらも重要です。利益獲得における間接的要素・直接的要素にそれぞれどれだけの費用を費やしているかを再確認し、バランスの取れた配分をしていきましょう。 

   【 利益性を向上させるには? 】                    

前述のように、粗利益は、顧客からしか獲得出来ません。そのため、利益性を向上させるには、まず顧客作りから始まります。より多くの顧客を作り出すには、他社を圧倒できる強い商品を作るか、顧客の集中した強い地を作るか、強い業界・客層を作るしかありません。しかし、経営において、この顧客作りが最も難しく、経費も一番多くかかります。また、顧客を作れたとしても、その顧客を維持(リピーターに)するのにさらに経費がかかります。言い換えれば、顧客作り・維持の過程での経費を少なくできればできるほど利益性を向上させることができます。では、そのようにするためにはどうすればいいのでしょうか。それは、前述の顧客作りの直接対象となる商品・地域・業界・客層のいずれかで1位を取る経営を目指すことにあります。

   【 1位作りの経営戦略 】          

▼1位の商品作り     

自社の経営規模と競争相手との力関係の2つを考えた上で、どの商品を強くし1位を目指すのか、重点商品をはっきり決めなければなりません。そのため、限りある経営資源で強い商品を作るには、商品の数を減らすか、範囲を狭めるしかありません。どの商品が売れていて、どの商品が売れてないのかを見極め、弱い商品からはいち早く撤退する必要があります。弱い商品を作り続けても利益性の向上に繋がりません。また、思いつきなどで、本業と関係ない業種に手を出しているなら、それをカットし、浮いた経営資源を重点商品に配分すべきです。自社で何かを作っている企業にとって、この戦略は欠かせないものになると思われます。

 ▼1位の地域作り
   
どの地域に力を入れ、どこを強くし、将来どの地域で1位を目指すのか、重点地域を明確にします。強い地域を作るには、営業範囲を絞り込むのが一番であり、1回の取引額が小口な企業、とりわけ年商1億円以下の企業には、この戦略を用いるのが有効だと思われます。また、H2Oを扱う企業(例えば飲料水卸売業など)は配送コストが割高なため営業範囲を狭めることで、販売コストを削減できます。この戦略を用いる上で採算の取れてない地域は訪問を減らし、電話・FAX営業に切り替えるようにしましょう。とにかく遠くには行かないことです。こうして浮いた営業力を重点地域に配分することで、やがて強い地域が育ちます。

  ▼1位の業界・客層作り
    
   【 中国進出状況 】        
 
  強い業界・客層を作るためには、大企業がまだ乗り出していない分野、手を出せない分野や地域、潜在的な需要があるにもかかわらず誰も気づいていない市場に進出していく、いわゆるニッチ戦略を用いることにあります。現在では飽和状態にある、コンビニエンスストア業界を例えますと、当時は、既存の一般小売店やスーパーマーケットによってカバーできなかった立地・営業時間・品揃えなどをサポートすることによって成長を遂げました。また、宅配便業界も、既存の運送業者によってカバーできなかった小口荷物・取次店システムなどをサポートすることによって成長を遂げた経緯を持ちます。このように市場における“隙間”をみつけ、そこを他の企業よりもいち早く攻めることにより、絶対的優位性を得ることができます。          
 
   【 1位のものがあるとどうなるのか 】                    
            
 
上記のどれかで1位のものができれば、従業員1人当たりの純利益が業界平均よりも格段に高くなり(上場企業の場合だと業界平均の3〜6倍)、顧客作りにおいても有利な立場を築くことができます。1位のものがあることで、それを利用する顧客が新たに顧客を作り出す助長となります。また、ライバル社が倒産、撤退した際に、そこの顧客が1位の企業に流れてくる可能性が非常に高くなります。この2つのアドバンテージが得られるため、顧客作りの経費が割安になり、利益性向上に繋がっていきます。そのためにも経営者は戦略(効果性)と戦術(能率)を見極め、自身の会社を1位の企業に昇華させてください。

   【 ランチェスタービジネス総括 】 

 目先の利益、売り上げにとらわれるのではなく、ゴーイングコンサーンの理念に基づき、常に先のことを見据えた、継続的経営をしていくこと、また、大企業と何で差別化を図るのか、自社の特長を分析し、どういう分野に絞ればナンバーワンになれるのか、そして、世の中が求める潜在的ニーズとは何かを模索していくことが今後の最大の課題になるのではないでしょうか。