「 上海研修レポート 」

 7月6日から2泊3日の日程で中国の上海に行ってきました。今回の研修の目的は、中国での日本企業の進出状況の現地調査を中心に、税務制度の現状や、金融機関の日本企業への融資状況など、中国の今を直に体験してきました。
 中国の経済発展の状況は日本の高度発展期に例えられますが、まさに今の中国はその状況に似ています。安い人件費と豊富な労働力というバックボーンに支えられ、ものすごい勢いで経済発展が進んでいます。 今回の研修では、その一部分を垣間見ると共に、先進国へと変貌を遂げようとする中国の勢いを少しでもお伝えすることが出来れば大変うれしく思います。

    
    【 中国経済状況 】
    
 2004年上半期(1−6月)のGDP(国内総生産)成長率が10%を超える見通しであると、マスコミ等で発表がありましたが、中国の経済発展については、2大イベントである北京オリンピック、上海万博までは順調に経済発展を続けていくだろうと言うのが、共通の見解です。しかし、この状況をバブルの兆しであると捉える意見もあり、世界経済への影響力が増大した中国の動向について各国が注目しています。
 SARS(新型肺炎)による経済への影響を最小限にとどめるため、積極財政拡大の政策をとってきたことが過熱論争に拍車をかけたということもありますが、中国政府も現在の状況を鑑み、マクロコントロ−ルに見られるような経済過熱抑制策を打ち出すなど、ソフトランディングに向けた具体策を実行しています。            
 今後、中国が高度成長を維持し、発展するかという問題になると、様々な見解があります。前段でも述べましたが、2大イベントまではと言うのは共通の見解ですが、その後に関しては多くの問題を抱えています。
 楽観論としては、国策として行われている沿岸部と内陸部の経済格差をなくし、内需の拡大による経済発展を期待すると共に、国内企業の成長による付加価値の高い製品の製造・販売により経済発展を推し進めるという見解があります。しかし、悲観論として、論点となっているのが表面化していない不良債権の問題があります。GDPは日本の約3分の1の規模に過ぎませんが不良債権の総額は、日本のそれとほぼ同額となっており、GDPにしめる不良債権の割合は日本の3.7倍に相当します。そのため、不良債権処理にてこずるようであれば、それが発端となり、中国経済が破綻すると言う見解もあります。また、中国の発展を支えるための物資を確保することができるかという問題もあります。現在、中国で深刻化している電力不足が良い例ですが、すでに中国のエネルギー事情は貧窮しています。石油等の資源をほぼ海外に依存しているためと考えられますが、現在のような大量消費型経済成長では、いずれ破綻する危険性もあり、効率的な成長方式への転換が急務となっています。                      
  このように現在の中国経済には、光と影が混在しているというのが、真実の姿であると考えられます。高度経済成長を続ける中国に目を奪われがちですが、今後、どのような姿へと変貌するのかを冷静な目で判断し、対応する能力がすでに必要となっています。           
            
    【 中国進出状況 】        
            
 中国に進出する日本企業はここ数年の間、増加傾向にあったものの今年12月に中国の商業法の大きな改正があるため、その様子見の状況にあり、以前のような伸びが見受けられないとのことですが、中国がWTOに加盟した2001年ごろから進出する企業が増加し、現在は2万社とも言われ、多くの日本企業が中国へ進出しています。最近の傾向として、以前は生産拠点としての位置付けでしたが、現在は、中国を新たなマーケットと捉え展開している企業が増えてきているとのことです。  
 中国へ進出した日本企業が中国で成功するための障壁となるのが、中国の法体系や商習慣があります。現在、2免3減 などの期間限定的な優遇措置の適用はあるものの、中国の制度は、発展途上ということもあり、計算式や税法の変更等が頻繁に改正されます。制度基盤が整ってから2年位しか経過していないため、実務との調整が必要となり、その改正に対応するだけでも、大変な労力が必要となります。また、地域により独自の通達、条例等もあり、上海では通用するが、天津では通用しないなど、進出する場所による対応が必要となります。
  また、債権の回収についても、マスコミ等で取上げられているように、長期的なスパンでの回収が必要となります。債権の回収率が悪いというのは中国の文化であり、きちんとルール守って代金を払うというのはまだまだ難しい状況にあります。売掛金の回収に2〜3ヶ月ぐらい掛かるというのも通常で、日本から見るとまだ長いかもしれませんが、それでも改善されてきている状況ではあります。また、どういった製品を扱っているかも売掛金回収に関係し、競争率が低い商品を取り扱っているところほど回収率は悪い傾向にあります。そのため、現金取引に移行する会社が増えつつあります。実際に現金取引に移行した企業の例だと、200社余りあった取引先が、現金取引のみに限定したところ、7〜8社程度に激減してしまったが、残ったところが優良企業だけなので、貸倒もなく、以前と同程度の売上を確保する事が出来たということでした。
 中国進出への理由として、賃金のコストダウンのために進出したいという会社が多い状況ですが、賃金のコストダウンを実現するためのステップ等を考えていないケースも往々にしてあるとのことでした。中国は見えないコスト(根回し等)も必要となり、トータルコストでは余り安いわけではありません。初期投資にどれだけ資金が必要なのか、独資か合弁で進めるのか等、リスク回避を考え行う必要があります。本当にどれだけメリットがあるかをしっかり考慮した上で、進出の有無を判断する方が良いと思われます。また、合弁だと配当の関係で難しいことが良くありますが、独資だと供電局が冷たいと言う事情もあります。合弁については供電局から優先的に電力の供給を受けられるなどメリットがあり、何かトラブルがあったときは現地のパートナーがいる方が行政の対応が良いということです。            
 また、中国には経済特区が約500箇所あるので、こちら現地(中国側)にメリットがなければ他の経済特区に行ってくれというスタンスになりつつあります。電力事情の問題があり、地域は進出してくる企業を選んでいます。例えば、杭州等の港がない地区は、電子部品等をやっており、紡績縫製会社等はもうここに進出しなくて良いと言うスタンスになっています。労働集約的な企業はもうここはこなくて良いと考えているようです。
  このように、中国への進出は容易な事ではなく、漠然としたイメージだけでは、成功するのが難しいと思われます。実際、利害調整がうまくいかず途中で挫折する企業も多く、投下した資金を回収できないケースも往々にしてあります。
 日本の生産拠点が中国へ集中すると共に、中国への依存度が益々高まる状況にあるなか、いかにして中国の勢いを吸収し、巨大市場から利益を得るかが今後の重要な課題となっています。生産拠点から、新たなマーケットへと変遷する中国への進出は、日本企業にとってのターニングポイントとしての位置付けにあると思われます。   
  
    【 似て非なる国 】                    
            
 上海は、梅雨時ということもあり天気が悪く、蒸し暑い状況でした。しかし、中国の活気と人の多さにカルチャーショックを受けつつ空港から上海中心部にバスで移動しました。日本の大手メーカーの看板がいたるところにあり、海外にいるのだと実感する風景でした。
 上海は沿岸部ということもあり、中国国内では、近代化が進んだ都市として有名ですが、まさにその通りで、高層ビルやマンションがいたる所に建てられ、新旧が両立している状況となっていました。また、表通りなど、大きな道路は清掃が行き届いているため、観光客に配慮した政策が執られています。しかし、裏通りに足を踏み入れると、生活感のある想像通りの中国がそこにありました。
 上海の人口は約1,500万人となっており、愛知県の人口の約2倍となっています。また、上海を中心とした200キロ圏内には約2億人が住んでおり、どこに行っても人の多さに驚かされます。また、上海の交通事情は中間層の自家用車の取得も進みつつあり、ここ1〜2年の間に朝晩の渋滞がひどくなってきています。また、郊外にマイホームを取得するなど日本の高度成長期がまさに今の中国であると感じました。             
 上海は、中国国内においても比較的に富裕層が多く、所得も他のところに比べて多いということもあり、治安等も良く、安心して街中を散策することができました。また、中国においては高価である携帯電話の普及率も高く、2003年末までに携帯電話の加入者数は累計で2億6869万となっており、加入者数だけでも日本の約3倍弱となっています。中国の携帯電話の価格は約3万〜5万円と高額であるにもかかわらず、2003年のみの新規加入者数は6268万8000人と、たった1年で驚異的な成長をみせています。それを見ても中国の経済発展の状況が見て取れます。日本と同じように街中で、メールを打っている若者も多く見かけました。
 今回の研修では、上海へ進出している企業・会計事務所等への訪問などを通し、一歩踏込んだ情報を得る事が出来ました。特に「日本派洛管理股?有限公司」、「上海隆進計算機技術諮詢有限公司」に訪問した時には、大変参考になるお話を聞かせていただけました。日本派洛管理股?有限公司は、経理情報データ入力を主とし、日本企業の中国での経営をサポートする企業です。上海隆進計算機技術諮詢有限公司は、地図情報システム(GIS)の入力・作成業務を主とし、この他、中国へ進出する日本企業へのサポート業務、中国人研修生の派遣などを行なっている企業です。両者において共通していた事は、中国人の潜在能力は、我々が想像している以上に高く、キャリアアップの意識も高いため、目標設定を明確にした人材育成を行えば、日本人に劣らない能力を発揮するとのことでした。
 一部の業界や企業で景気の底打ち感が広がっていますが、依然、厳しい状態にあります。そのような閉塞感のある現状の中で、今回の研修を通して、日本に足りない勢い、活力を感じ取ることが出来たと思います。多くの日本人が忘れてしまった、ぎらぎらとした闘争心を有した国でした。                              
                        
    【 上海蛇足 】          
               
 上海にリニアモーターカーがあることを研修に行く直前まで知りませんでした。上海市内から空港までの約30キロの区間を最高時速430キロ/時で駆け抜け、わずか8分弱で、目的地に到着します。日本では、山梨で行っている試験走行に応募して乗るしかありませんが、世界初の商用営業中のリニアモーターカーに乗れたことは、良い思い出になりました。思っていたよりも乗り心地も良く、最高速度に達した時でさえも、ほとんど揺れも、騒音もなく、快適な8分間でした。上海に行く機会があれば、是非ともリニアモーターカーにお乗り下さい。