「中小企業経営者のための格付けアップ大作戦」
 

講 師  株式会社 ファインビット
       代表取締役 中村 中 氏

略 歴  1950年 東京に生まれる
       1974年 慶應義塾大学経済学部卒業
             三菱銀行へ入行
       1980年 中小企業診断士登録
       2001年 東京三菱銀行退職
       2002年 株式会社 ファインビット 代表取締役 就任
             現在に至る

          【銀行内職歴】
          本部(融資部・ローン推進室・個人部・営業本部・支店総括部・支店部)
          支店(岩本町・東長崎各支店長、飯倉・福岡各副支店長)
          関連会社(TDB取締役企画部長)

 今回のセミナーは、『金融検査マニュアル』(別冊)による、中小企業の格付けや、金融機関の対応について、元銀行員の経歴を持つ中村中先生に「中小企業経営者のための格付けアップ大作戦」と題しご講演いただきました。タイムリーな内容だけにご参加頂いた皆様は大変熱心にお聞き頂いていました。今回のセミナーのポイントを下記にてまとめましたので、格付けアップ、金融機関との交渉時にお役立て下さい。

● 中小企業格付けとは?
 各金融機関が企業の業績な
どに応じてランク別に分けることを言います。では、どのように分けるのでしょうか。まず、企業の経営状況などをスコアリングシート(点数表)で、判断し、その後、企業の強みとなる、経営者能力、営業力・商品開発力等、また、経営者の個人収入・資産余力などを加味し、総合的に判断します。前者を「定量的分析項目」、後者を「定性的分析項目」と一般に言われ、金融庁から出された『金融検査マニュアル』(別冊)に整合性を持たせた基準となっています。

● 金融機関が格付けを利用する理由
  【理由1】「貸出し審査が効率化される」
 コンピュータ化により金融機関業務の大量スピード処理が可能となるにつれ、金融機関では最も時間のかかる顧客との交渉を効率的に行なう事が、重要視されています。そのため、スコアリングシートより審査を行い、格付けや算出過程を説明する事が、時間の節約・短縮化に大変効果的です。
  【理由2】「格付けを使った顧客への説明には説得力がある」
 格付け制度という一つの客観的なものさしによって、貸出の決定が行なわれているという説明は、顧客に対して、不公平感をなくし、説得力ある説明を行なう事ができます。また、金利引上げ交渉においても格付けを使った説明は大変有効です。

● なぜ格付けを上げるのか?
 格付け制度の定着により格付けによって貸出金利を決定する「格付け連動型金利」の適用が広がっています。現在、大半の企業は3〜5%の金利ですが、要注意先に認定されると5%を超える金利が提示されることもあります。厳しい経営を強いられている企業にとって、金利のアップは死活問題にかかわる重要な問題となります。しかし、その逆に、財務状況を改善し、格付けを上げる事は、金利の引き下げにつながり企業経営に対しプラス要因として作用します。格付けのマイナス要因ばかりに気をとられるのではなく一つ上の格付けを目指すことを今後の経営課題として下さい。

● 格付けアップ作戦
 格付けを上げる具体的な方法としては、効果的に各財務分析指標を引き上げる事が重要となります。その一例としていくつか紹介させていただきます。
  【「自己資本額」の増額】
  @役員の会社への貸付金を資金源に増資する          
  A関連会社を合併・統合して自己資本を増やす          
  【「有利子負債金額」の圧縮】          
  @塩漬けの定期預金を解約し、「総借入残」を減らす          
  A売掛金の回収サイトの短縮化を図り、「運転資金の借入残」を減らす          
  【「営業利益」の増額】          
  @売上高を変えずに利益率の高い分野にシフトする          
  A営業外利益や特別利益を営業利益に組み入れる          
          
● 経営者が金融機関と交渉するために…          
 経営者の皆さんが金融機関と交渉する上で重要なものとして、「中長期経営計画の作成」があります。中長期経営計画を金融機関担当者に提出し、具体的な数字と方法論を提示します。さらに業界情報などの客観的資料を参照しながらの説明は、さらに説得力が増します。また、遅くとも3年後には、格付アップが可能な中長期経営計画を提示する事が重要です。ただし、中長期経営計画であればどのようなものでも良い訳ではなく積み上げ計算に基づく計画が必要です。成り行きだけの曖昧な計画や、現実不可能な高すぎる計画は逆効果です。そのため、毎月の売上管理や月次決算の実施、業界情報を新聞や雑誌、ホームページ等から収集することが大切です。また、自社の強みを箇条書きにしておくことも必要です。他社にない販売力・商品開発能力等の内容を書出し、金融機関との交渉時に資料として提出すると、中長期経営計画の信頼性がさらに高まります。金融機関に中長期経営計画を提出することは、全ての債務者区分の引き上げに役立つため、自社の経営状態を客観的に判断し作成して下さい。          
          
● 金融機関との交渉術          
 赤字というだけで原則として債務者区分を「要注意先」と見なしてしまう金融機関が多いですが、このような場合、中長期経営計画を使い今回の赤字の原因を説明し、自社の強みを強調しながら、その内容を今後の自社の見通しや背景を含めて、金融機関が理解できるように分かりやすく説明しましょう。また、自社の事について力強く説明する「モノ言う経営者」として交渉に臨むことが大切です。  実際どのようにして交渉に臨むのかと言うと、金融機関にとって貸付金を全額回収することが重要となり、貸付金を回収できるかどうかのリスクは、格付けが高い時はリスクが低く、低い時はリスクが高くなります。そのため、交渉時にはそのことを金融機関に説明しましょう。自社は、借入金に対し、十分な担保を入れてあり、万が一の場合があったとしてもその分を十分担保で補うことができると交渉しましょう。多くの企業は、借入に対し担保がきちんと設定してありますので、貸し倒に係るリスクは低くなると思われます。  それでも金融機関がリスクを補うことができないと言って来たら、借入金一つ一つの個別引当で計算してもらえば、今のリスクが低くなるのではと言ってみましょう。格付けによる引当率は、同一格付けの企業に対しどれだけの引当金 を計上するのかという平均的な率を金融庁が提示しているだけであり、実際は各企業のリスク率はまちまちです。また、個々の借入金でも、そのリスク率は違います。そのため、個別引当で計算してもらうと、通常の引当率より下がると考えられます。  このように交渉し、金融機関の納得を得る事ができれば、金利を下げることも可能ですので、地道に金融機関と交渉しましょう。また、必ず半年に一回は、中長期経営計画を持って金融機関に説明に行きましょう。金融機関に現状を話し、お互いの意思疎通を図っておく事は、今後、貸し渋り、貸し剥がし対策にも大変有効です。          
          
 以上のように今回のセミナーのポイントをまとめさせていただきました。特に「中長期経営計画の作成」と「モノ言う経営者」への取組みは、今後の重要課題です。金融機関が変化しつつある中で、時代の変化に伴い柔軟に対応し、経営計画を実行する経営者の強い意志が求められています。当事務所では、それらの変化に対応するツールとして、月次決算の実施(FX2)、中長期経営計画の作成(継続MAS)、企業格付け自己診断システム等を活用したサポート体制を整えています。また、銀行交流会を通して、地域金融機関との相互理解を深めるとともに、リレーションシップバンキングへ対応すべく、各関与先企業様に対し適切な助言・指導を行い、三位一体で取組み、地域経済の発展に向け努力する次第であります。  当事務所では長年のノウハウを活かした最適なコンサルティングを行なっておりますので、いつでも当事務所のスタッフにご相談ください。