「日本経済のゆくえ」
 
講 師  中京大学教授 水谷 研治 先生
略 歴  1933年 名古屋市に生まれる
     1956年 名古屋大学経済学部卒業
          東海銀行へ入行
           清水、秋葉原、八重洲、ニューヨークの各支店長、 調査部長、専務取締役を歴任
     1989年 経済学博士(名古屋大学)
     1993年 株式会社東海総合研究所に転じ、代表取締役社長、同会長を歴任
     1999年 中京大学 教授・株式会社東海総合研究所 理事長
     2002年 4月より現職
     現在   財政制度審査議会専門委員

 第2部では、テレビや新聞でご活躍している水谷研治先生をお招きし、「日本経済のゆくえ」と題し、ご講演いただきました。
 大変厳しい経済状態が続いていますが、一部の産業では順調な伸びが見られるようになり、ようやく我が国の景気回復も現実味を帯びてきました。このような一部の産業の回復をきっかけとした、連鎖的回復が期待でき、過去の事例と見比べても早いペースで回復すると思われます。
 今回の景気回復の背景には、海外輸出が伸びているということがあります。なぜ今まで海外にものが売れなかったかと言うと、米国内の情勢が大きく関係しています。テロの影響により米国内の消費が減少したことにより、輸入量が減少しました。その影響を大きく受けたのが東南アジアです。東南アジアは多くのものを生産し米国に輸出しています。当然、米国が買わなくなると輸出量が減少します。東南アジアは、多くの部品を我が国から輸入しているため、その影響で、我が国の東南アジア向け輸出も減少しました。また、それ以前のITバブルの崩壊による影響が存在したため、大きな影響となり世界中が落ち込みました。しかし、それらの影響が収まり、米国の消費が伸びたため、結果的に我が国の輸出量も伸び景気が回復しつつあると言う事になります。
 今後、この調子で景気が回復して行くかというと、やや疑問に思われます。それを如実に表しているのが米国の株価です。エンロンに始まりワールドコムの影響で急落していますが、この急落が一時的なものなのか、そうでないのかに焦点が集まっています。米国の経済は本来、力強いものと思われていますが、本当にそうだろうか見直しがせまられているのではないかと私は考えます。事実、米国の経済が健全であるとするのであれば、一時的な影響であれ、株価が低迷しても、いずれ回復するでしょう。しかし、傷はそれほど浅くなく、深刻な状況であると思われます。
 輸出は米国に頼っていますが、では、米国の景気はどうでしょうか。確かにワールドコムの影響などで株価は低迷しているとは言え、たいした問題とは思いません。問題は株価ではなく米国自体の経済状態にあります。ダウ平均株価でも成長率でもなく、赤字か黒字かという問題です。企業でもそうですが、赤字体質では長続きしません。現在、米国の借金額は20,000億ドルに達しています。しかし、米国が借金をしてでも国を潤し続ける限り、我が国からの輸出量は増え続けます。世界中が米国を信用し、お金を貸し続ける限り米国の経済は発展し続け、世界中から商品を買い、世界中が潤い続けます。
 しかし、いつまでもこの状況がつづくのでしょうか。いいかえれば米国にみなさんがお金を貸し続けることができるでしょうかという問題になります。それを表すのが為替相場です。どんなにドルの流通量が多くともドルが値上がりするのであれば、儲かるのですから世界中が買います。しかし、その逆でドルが下がりだすと大変なことになります。誰も米国にお金を貸さなくなり、世界中の景気が悪くなることとなります。このまま、ドルが下がり続ける可能性がおおいに考えられます。米国経済はいつ崩壊してもおかしくない状況であると言えます。
 では、我が国の経済はどうでしょうか。我が国は多くの赤字を抱えています。しかし、多くの赤字を抱えていても国民生活に大きな問題はありません。米国と同様に赤字額が多ければ多い程、国民生活は豊かですが、今は問題がないとしても10年、20年後にその影響が現れます。大変なインフレになると考えられます。現在はデフレですが、それは、我が国にものを作る力があるからです。そのため国内にものが余り、ものの値段が下がっています。このもの余りの状況は長期間続くと予想されます。そのため、ものが売れず、工場は閉鎖され、我が国の生産力は下がり、ついに国内でものが作れなくなります。結果、国内でものが作れなくなると海外に売ることができなくなり、お金がなくなります。しかし、借金をして海外からものを買えば国民生活は豊かなままです。このような状況が続く間は問題ありませんが、お金が借りられなくなった時にもの不足となり深刻なインフレとなります。このようなことが20年後に訪れると予想されます。
 国の借金は600兆円あります。その金利だけでも年間10兆円です。公共投資の総額が9兆円ですからものすごい金額です。このような金利をどうやって返済するのかというと、国の収入の中から返済しています。国も収入は税金です。国の使えるお金は年間34兆円ありますが、年間売上の30%を金利に支払っているという状況です。一般企業であるなら倒産しています。最悪でも年間売上が限界です。国は年間売上の17倍あり返済が不可能となっています。そのため、借金を増やしてまで公共投資など行うことはできません。政府にその力はありません。
 政府に頼るのではなく、皆さんの力で何とかしてこの状況を乗り切らなくてはいけません。景気はこのまま悪い状況が10年続きます。皆さんも合理化を進め支出を抑える努力をしていると思いますが、その合理化はどこに向けてされましたか。10年後、20年後の将来に向けてもう一度経営計画を考え直して下さい。結果、賃金など従来通り払うことはできなくなります。大手企業も同様です。政府は表立っていうことはありませんが早めに対応しなくてはなりません。冷厳な現実を直視すれば、これもやもえません。これは私からのお願いでもあります。
 以上のような講演内容でした。水谷先生のお話しは大変厳しいものでしたが、10年後、20年後に生き残る企業になるためにも、今の現実を直視し、自助努力しなければなりません。そしてもう一度、確固たる信念を持ち経営計画を作成し直してください。その時は、当事務所のスタッフにいつでもご相談ください。豊富な知識に裏づけされた助言、指導で最適な経営計画作成のお手伝いをさせて頂きます。